逆境においては「必ずうまくいくようになる」と信じるしかない

昨今、景気は絶不調。先日、商売をしている友人のグチを聞いておりました。曰く、何年も一生懸命頑張っているのだが結果がでない。このままでは潰れるかもしれない。移転しようと思うのだが・・・。商売替えも考えている・・・。まぁ、そんな内容だ。

友人のグチはよくわかるが、どんな商売でも良いときばかりではない。景気のいいときと言うのはほんの一時で、むしろ悪いときの方ばかりといってもよいかもしれない。それでも耐えて、忍んで、良いときが来るのをじっと待つ。頭では理解していても、それでもグチをこぼしたくなるときがある。

そんなとき、ふと魔が差して、あまりの景気の悪さに、勝負に出ようと思うときは確かにある。しかしながら調子の良いときの勝負は勝てるが、起死回生の勝負は負ける。一発逆転の勝利などというものはない。時に一発逆転の勝利と見えるものはあるが、子細に分析すれば、やはり絶え間ない努力が見えないところに潜んでいるものなのだ。忘れかけた、忘れそうな、勝利の時を胸に秘めて、商売人は耐えなければならない。

友人のグチに相づちをいれつつ、それとなく、そんなことを諭しながら、グチを聞いておりました。諭したことなどは向こうも先刻承知のことだったでしょう。とはいえ、やはり、ていねいに諭しておかなければいつ魔がさすとも限りません。これは、友人として、また失敗した人間としては義務ともいえるでしょう。

そんな電話のあった翌日の朝刊。膝を打った記事を見つけましたので、以下にご紹介。

「結果残す」覚悟貫く 香川真司のアタマの中(下)
2012/4/25 6:50

「あのころは追い詰められていた」と香川真司は振り返る。「というより、自分で追い詰めていたのかもしれない。そういう性格なので」

昨年8月開幕の今シーズン序盤、ドルトムントも香川自身ももがき苦しんでいた。攻めの起点になっていたMFシャヒンが去り、得点源のFWバリオスが故障。中盤の底からくさびのパスがタイミング良く香川に入らなくなり、前線での軽妙な細工も減った。

最初の6戦は2勝1分け3敗。新加入のMFギュンドガンら周囲の選手も苦悩していた。「核となる選手が抜けて、チームとしてさまよっていた感じがする」という。

しかも本人の状態がなかなか上がらなかった。昨年1月のアジアカップで右足小指を骨折し、5月中旬まで戦線を離脱。影響は大きかった。

そんな中、日本代表として毎月、欧州とアジアを行き来した。開幕直後の8月10日、日本での韓国戦で2点を奪ったものの、ドイツに戻ると体のキレが悪くなっていた。「そういう状態が続いて、精神的にも疲労した」。10月には2試合続けて出番を失っている。

■逆境を乗り越えた1年

追い詰められていたというのは、このころのことだ。「でも、投げ出すわけにはいきませんからね」。結局、逆境においては「必ずうまくいくようになると信じるしかない」と話す。コンディションや連係の問題はたいてい時間が解決してくれる。カギはその間、強い気持ちを保っていられるかどうかなのだろう。

香川にはそれができた。クロップ監督が率いるドルトムントにはそれができた。苦悩が溶け、いい感覚を取り戻したのは12月に入ってかららしい。「チームとしても個人としても、攻守にわたって積極的に前にいけるようになった。こぼれ球を拾い、前半からボールを支配して相手に何もさせない。特にホームではそれができた」

何か転機があったわけではないと強調する。ボタンを一つ押せば、すべてが劇的に変わるなどということはないのだ。チームも香川自身も指針をぐらつかせず、辛抱強く自分たちのサッカーを継続してきたからこそ、歯車が合ったのだ。

今年の4月に入り、ビッグネームがそろう2位バイエルン・ミュンヘン、最大のライバルである3位シャルケを破った連勝で優勝をほぼ決定づけた。その終盤戦、言い聞かせていたのは「いつも通り」ということだ。

■「点を取った者が一番」

私生活においても、いつものリズムを保つことに努めている。「試合に向けて徐々に集中力を高めていく。でもピリピリした雰囲気をつくるのではない」。むしろ、厳しく管理はしない。

「仲間と食事に行ったり、ゆっくり寝たり、ボーッとしたり。この時間は何をしなければいけないとか、時間だから寝なければいけないというふうにはしない。思うままに動く」

それができているときは、心身がいい状態にあるときなのだ。ピッチに立てば、最高の集中力でゴールを陥れることに心血を注ぐ。「点を取った者が一番」という信念を持って走る。結果を残し続けなければ、退場を余儀なくされる世界にいることを肝に銘じている。

「この舞台で結果を残すんだという覚悟、強い気持ちがないと生き残っていけない」。1年目の昨季はドイツ人に鮮烈な印象を残したが、ケガで後半戦を棒に振った。今季は1年を通じてチームの核として働いた。

香川にボールが収まれば何かが起きる。そのとき、ホームの8万人の観衆の胸が騒ぐ。巨大スタジアムが揺れる。

(ドルトムント〈ドイツ〉=吉田誠一)

膝を打った箇所は「逆境においては「必ずうまくいくようになると信じるしかない」と話す。コンディションや連係の問題はたいてい時間が解決してくれる。カギはその間、強い気持ちを保っていられるかどうかなのだ」の部分だ。 「ボタンを一つ押せば、すべてが劇的に変わるなどということはないのだしかし、どんなに長い夜でもいつかは明ける時がくる。信じて待てば、夜は明けるのだ。

合理的であるとか、ロジカルであるということは大事だが、それも信じることあってのこと。では何を信じるのかというと、それは志だろう。志を意識して、意志。念ずるとか、信じるということには無縁そうな若者にみえるが、香川氏の志は深そうだ。上記の記事に先立つ(上)の記事を以下にご紹介。

パス磨き、常に進化 香川真司のアタマの中(上)

ナチュラルにいこうということなのかもしれない。「試合になったら余計なことは考えない」と香川真司(23)はいう。

「どういう試合になるというイメージは持たないようにしている。相手はこうくるだろう、だからこう動こうというイメージを試合前に持つと、体がそれに縛られてしまう」。だから、「無心になる」のだという。「ボールと相手とピッチだけを見て集中する」

また、こうも表現する。「試合になったら本能に任せていますから」。面白いことに、それが理にかなった動きになっている。いいフットボーラーとはそういうものなのだろう。自然な動きで相手の急所を突く。

香川の動きを追うと、いいプレーとはいい準備の連続で成り立っていることがわかる。準備、準備、準備……と間を置かずに次のプレーの準備をすみやかにしていくのだ。動きながら、つまり相手と駆け引きをしながら、なるべく前向きでパスを受けられる状態をつくり続ける。

■プレーの選択肢が増える

ごく狭いスペースでも平気でパスを受ける。しかも今季は、そこから次の一手を相手につぶされたとき、または味方とのタイミングが合わないときに、いくらでも別の手をスムーズに出せるようになった。

「ボールを持ったときのプレーの選択肢が増えているのを感じる。そこが今季の僕の評価できる点だと思う。スルーパスの精度も上がった」

実はそれは、意識して磨いた点なのだという。「選手としてレベルアップするには、プレーの選択肢を増やしたり、パスの質を上げたりしなければならないと思っていた」。そう考えただけではない。強く意識し、念じたのだ。

「どうしたいんだと意識し続けることが大事なんです。こういうことをしたいんだと体と脳に染みこませる。そうすることで、徐々にその思いが結果として表れてくる」

何か夢や目標を抱いたら、それを絶え間なく意識する。香川はそうやって生きてきた。今季の9アシストという数字は、いわば念じることで実らせたものだ。大黒柱だったシャヒンが移籍し、ボランチからの攻撃の構成力が落ちたなかで、パスの精度を磨いた香川が果たした役割は大きい。 ただし、本人はこうもいう。「パスに酔ってはいけない」。それは本分ではないというのだ。「自分はあくまで、得点能力の高い中盤の選手だと思うので」。主は自らゴールを奪うことにある。「そこは一番ぶれてはいけないところ」

自分はゴールを奪うたぐいまれなる能力を持っている。それは誰もが備えているものではない。だから、その力をチームのために発揮しなくてはならない。そうした強い自負がある。だから言うのだ。「パスに焦点を持っていってはダメ。いかに点を取るかを考えなくてはいけない」

■今季13得点も納得してはいない

優勝を決めた一戦での歓喜のゴールで、今季の得点は13となった。それは欧州主要リーグで日本人選手が挙げた最多記録だ。だが、この程度の数字で納得していない。

開幕前に故障したバリオスに代わって、1トップに座り続けたレバンドフスキは周囲を生かす繊細さに欠ける。トップ下の香川がシーズン序盤で苦しんだ理由はそこにもある。だから、言う。「彼が僕を生かしてくれていたら、もっと点を取れたという自信がある」

決して相棒を批判しているわけではない。単に悔しいのだ。もっとできるという確信と野心があるのだ。満足も納得もしていません。その強い思いがにじみ出る。

(ドルトムント〈ドイツ〉=吉田誠一)

〔日本経済新聞朝刊2012年4月23日付〕

「何か夢や目標を抱いたら、それを絶え間なく意識する。香川はそうやって生きてきた。今季の9アシストという数字は、いわば念じることで実らせたものだ。」という箇所には大賛成です。

 

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